補完代替医療(統合医療)
西洋医学はもともと分析科学的な手法で、病気の病態解明、診断、治療法の開発という過程を経ることによって成功してきたため、どうしても患者本人の健康・生活よりも病気そのものの治療に焦点を当てがちである。そのため、西洋医学は原因のはっきりした疾患の治療には成功してきたが、膠原病やアレルギー疾患といった原因不明あるいは原因が複雑な疾患、精神的な要素が関与する疾患などの治療には必ずしも成功しているとはいえない。
多くの伝統医療を含む補完代替医療(または統合医療)は、分析主義の西洋医学に対して初めから患者を全人的・総合的に治療したり、病気を未然に防ごうとするのが基本方針である。以前は主流の西洋医学の立場からは「インチキ、不法のもの」として扱われがちであった多くの伝統医療が、上述の西洋医学におけるさまざまな欠点を補うことのできるものとして見直された結果、「補完代替医療(統合医療)」という概念が生まれ、近年ますます盛んになってきたものである。
いろいろな補完代替医療 (出典)新しい診療理念 日本医師会雑誌 (2005、p90)
補完代替医療(complementary and alternative medicine)とは一般に大学の医学部で教育されている主流の現代西洋医学(主流医学;mainstream medicine)以外の医療と定義され、下記のようにさまざまなものを含んでいる。
民族療法などの体系的医療
漢方、鍼灸、アーユルベーダ、チベット医学、ユナニ、その他各国の民族療法、ホメオパシー、自然療法、人智医学
食事・ハーブ療法
栄養補助食品、絶食療法、花療法、ハーブ療法、長寿食、菜食主義、メガビタミン療法
心を落ち着かせ、体力を回復させる療法
バイオフィードバック、催眠療法、瞑想療法、リラクセーション、イメージ療法、漸進的筋弛緩療法
体を動かして痛みを取り除く療法
大極拳、ヨガ、運動療法、ダンスセラピー
動物や植物を育てることで安楽を得る方法
アニマルセラピー、イルカ療法、園芸療法
感覚を通じて、より健康になる療法
アロマセラピー、芸術療法、絵画療法、ユーモアセラピー、光療法、音楽療法
物理的刺激を利用した方法
温泉療法、刺激療法、電磁療法
外からの力で健康を回復させる治療法
指圧、カイロプラクティック、マッサージ、オステオパシー、リフレクゾロジー、頭蓋骨調整療法、セラピューティックタッチ
宗数的治療法
クリスタル療法、信仰療法、シャーマニズム
アメリカでは1970年代から補完代替医療に対する関心が高まり、1992年に国立衛生研究所(NIH)内に補完代替医療事務局(OAM)が設立された。 1998年には予算も当初の10倍の2,000万ドルとなり、補完代替医療に関する研究、調査を行い、EBM(Evidence Based Medicine)に基づいた有効性の検討を行っている。
近年、アメリカではメディカルスパ(治療の泉)といった施設名称が一般名詞化してきている。これは、スポーツクラブなどの健康増進施設、アロマセラピー、鍼灸、リフレクソロジーなどの補完代替医療を集めた診療施設を西洋医学の医師のクリニックに併設し、リラクゼーションをすることで、ストレスを排除し、病気を未病のうちに防ごうという考えが発祥である。
ヨーロッパ諸国はアメリカと並ぶ補完代替医療の発達した国といえる。なかでも補完代替医療への関心が最も高いイギリスでは、国民の10人に1人、1年間に1,000万~1,200万もの人がアロマセラピーのような補完代替医療治療を受けているのは驚くべきことである。
日本は古来より、鍼灸学や漢方医学が発達し、補完代替医療に対しては世界的に先進国であった。しかしながら、戦後、西洋医学の意義が重要視され、現在、日本において補完代替医療を教育している大学医学部はわずか4校だけである。医師以外の施術者によって行われている補完代替医療分野のうち、鍼師、灸師、あんま・マッサージ・指圧師、柔道整復師は厚生労働大臣による免許で国家試験になっているが、カイロプラクティック師、整体師などには国家資格がなく、その養成機関も実体が不明瞭なものが多い。十分な医学知識を持たずに施術することは健康を害する可能性も大きく、研究施設などの配備とエビデンスのある診療方法の選別には細心の注意が必要であるといえる。
これらの治療が保険診療治療として認められていない以上、自費診療として日々の診療に取り入れざるを得ないが、このような治療基準の整備を行うためには、やはり初期に、西洋医学の知識を持った医師が補完代替医療に対して正確な知識を持ち、実践することが大切であろう。
外科や内科、皮膚科といった既存の概念のクリニックから全く離れた、新しい価値観のクリニックを、これからも作り上げて行きたい。
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