牡蠣にあたる理由
牡蠣がおいしい季節ですね。僕も大好きです。でも牡蠣は一度「中(あた)る」と二度と食べられないと言われます。好きなんだけど食べられない! そんな人もいるのではないでしょうか?
ところで貝毒っていくつかの種類があるのをご存知でしたか? 日本では下痢性貝毒と、麻痺性貝毒があります。下痢性貝毒は、ホタテ貝やムラサキ貝、アサリ、ホッキ貝などでおこります。激しい下痢と吐き気、嘔吐などを起こします。しかしながら、日本では死亡例はありません。麻痺性貝毒は、ホタテ貝、アサリ、カキ、ムラサキ貝でおこり、食後30分で口唇、舌、顔面のシビレ、手足にも広がるもので、重症になると呼吸不全で死亡する例もあります。治療薬はなく、対症療法として、胃洗浄、人工呼吸をする場合があります。
海外では神経性貝毒(口内の灼熱感、紅潮、運動失調)や、記憶喪失性貝毒(脳細胞の異常興奮により海馬が破壊され、下痢、嘔吐、腹痛を起こす)があります。貝には少量の毒が含まれていることが良くあるようで、同種の貝を大量に食べてしまうと貝毒にやられることが多いのです。
牡蠣で「中る」というのは実はこれとは全く別の理由です。牡蠣やえびなどの特殊なタンパク質を持つ食材でアレルギー反応を起こしてしまうことによるのですね。
タンパク質は無限にありますが、体内には同種のタンパク質(主に病原体なのですが)が二度目に入ってきたときに抗原抗体反応が即時に起こせるような仕組みがあります。これは、死に至るような病原菌が体内に入ったときに、一刻も早く、その病因に対処するための人の優れた防御装置なのです。
ある特殊なタンパク質に対して、アレルギー反応を持つということは、体内で抗原を見つける細胞が、そのタンパク構造の一部を鍵と鍵穴のように、立体的に構造を記憶するということです。ところが、Tリンパ球の体内での寿命は約20年といわれており、20年の間、一度もその同種のタンパク質に接触しないと、Tリンパ球による再感作が起こらないので、再び異物として判断されなくなるのです。
私の父は、子供の時に大好物だった牡蠣を食べ過ぎて、ある時、突然アレルギー反応が出るようになってしまったらしく、牡蠣を全く食べられませんでした。ところが、60歳を過ぎたあたりから、20年ぶりに牡蠣がまた食べられるようになったといって喜んでいたのです。アレルギー反応に関して言えば、20年で抗原提示リンパ球が消滅するわけですから、実はこれは理にかなっていることなのですね。
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