「国民の館」とマイケル・ジャクソン
そもそもルーマニアの人たちは英語をほとんど話しません。
街中で、とあるルーマニア人に「この建物は英語で何と言うのか知っていたら、教えてくれないか?」
と、聞かれたぐらい。共産国であったルーマニアには、英語がまだまだ通じる人が少ないのです。
明らかに見た目東洋系の僕なら、英語を話すのだろうと思ったのでしょう。
きっと多くの観光客がこの建物の名前を聞くのだとおもいますよ。
実際にこの「国民の館」の観光をして、とにかく度肝を抜いたのはこの建物の大きさです。
この建物。人工の建造物の面積としては、なんとアメリカの国防省ペンタゴンに次ぐ広さ。
建造物の容積としては、1位のフロリダのスペースシャトル格納庫。
2位のメキシコのチョルラの大ピラミッド。
この建物の容積は、それらの巨大建造物に次いで、第3位なのだそうです。
2008年にフロリダで行われた米国レーザー学会の時に見学した、フロリダのスペースシャトルの格納庫には、内部構造はほとんどありませんでした。メキシコのチョルラのピラミッドも見た目は小高い丘のようなもの。
この「国民の館」は、人が実際に生活できる建築としては、間違いなく世界一の容積なのです。
ちなみにこの建物、上から見ると正方形で、4面すべて対称の構造です。
つまり、この写真から見えている部分は1面だけなのです。いかに巨大かは、推して図るべし。カメラもかなり引いて遠くからとらないと、建物全体が写りません。
現在は一部が国会議事堂。一部が観光用として使われていて、使っていない部屋の電気は節電のため、消してあります。莫大な費用がかかるのだそうです。観光するグループが部屋に入るときに、ガイドが部屋の電気のスイッチを入れるのです。
この世界最大の建築物が当時のルーマニアの経済力といかに不釣り合いだったか、よくわかります。
ガイドによると、ギザのエジプトのピラミッドはこの建物に次ぐ第4位の容積を持つ建築物なのだそうです。
チャウシェスクが銃殺されるまで、この建物の建築工事が進んでいたようですので、さらに拡大した可能性もあるわけです。
カーテンや家具などの調度品も、それぞれの部屋に合わせて特注したとか…。
この階段は、チャウシェスクが最もお金をかけて改造したものだそうです。背が低かった彼が階段に立ったときに、最も見栄えがするサイズに何度も作り替えたそうですが、高額な白い大理石を使っています。
1965年に政権を握ったチャウシェスクは、多額の対外負債を返済するために、商品作物大量に生産させ、輸出にあてるといった飢餓輸出を政策として行い、トランシルバニアのハンガリー人を弾圧。
さらにすべての女性に5人までの出産義務を課すなどとした政策を断行し、自身は妻のエレナと放蕩三昧の生活を送ったといわれています。
結局、1989年にソ連でゴルバチョフ政権が起こり、ペレストロイカを推進すると、東欧も民主化の流れで革命が起こり、1989年12月のクリスマスの日にチャウシェスクは公開銃殺されました。
この不毛な建物を見ると、国民の怒りがどれくらいのものだったのかがわかります。
この大広間の中央には、民衆に対して語りかけることができるバルコニーがあります。
統一大通りと呼ばれるこの大通りがここから見渡せるのです。
この通りは国民の館を起点に約4kmあるのですが、もちろん、パリのシャンゼリゼ通りを模倣したもの。長さも幅も、ほぼシャンゼリゼ通りと同じ大きさなのだそうです。
通りの左右には高級官僚が住む予定だったアパートメントが立ち並んでいますが、ルーマニアの国力からすると、法外の建設費がかかっているようで、通り沿いに住民はまばらです。
実は当のチャウシェスクが、このバルコニーから国民に対して演説をする機会はありませんでした。
英語のガイドによると、このバルコニーから演説をする機会があった人物が一人いたのだそうです。
それは世紀のスーパースターであるマイケル・ジャクソン!!
コンサートでルーマニアに立ち寄ったマイケルが、この窓からファンに向かって叫んだ最初の言葉は、
「ハロー・ブタペスト」。
でも、この地は「ブカレスト」。「ブタペスト」はハンガリーの首都ですよね(笑)。
そのほか、英語ガイドさんのシャウチェスクについての歯切れのいいジョークに、皆、笑っていました。
ツアー中だけでも英語が通じるのは本当に気持ちが楽で、僕はガイドさんにはいろいろと質問したり、話しかけてしまいましたよ。
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