モーツァルトによる傑作のひとつ オペラ「魔笛」。
DVDで手に入るようになってから、気がつけば幾つも違う演奏家の作品を購入していました。
聴き比べが、楽しいのです。
聴いてみると、パパゲーノのこの曲はこのDVDが良いとか、ザラストロのはこのDVDが良いとか、自分なりに好みがあるんですよね。
面白いな、と思ったのが、特にオペラの場合、有名な評論家が高い評価をしているDVDの中にも、自分の好みに合わないものがあったりすることです。
クラシックのCDでは、高い評価を受けたものを買えばまず間違いなかったのですが、やはりオペラはオーケストラの演奏に加えて、舞台の演出、それぞれの歌手の役柄との相性、さらには歌手のその日の声の調子・・・など、パラメータが格段に増えるのですよね。
オペラの魅力はいくつもありますが、その内の一つは、なんといっても一人の人間の声が信じられないほどの迫力と情感とでもって会場の中を響き渡り、あっという間に皆を魅了してしまう事だと思います。
ひとつの歌劇場の中で人の声を最も効果的に響き渡らせるために、オーケストラの指揮者、一つ一つの楽器や演出家が神経を集中するわけですから、オペラ歌手というのは、プレッシャーも相当あるでしょうが、一度この仕事を全うできたらきっと何物にも代えられないような喜びを感じるんでしょうね。
人の声質は、他の誰にも代える事の出来ない、世界に一つしかない「天与の楽器」だと言われています。
オペラ「魔笛」でも特にこの「天与の楽器」がどこまで響くのかを問われるのが、「夜の女王(ソプラノ)」が歌う二つのアリアです。
一つ目が
第1幕の「ああ、恐れおののかなくても良いのです、わが子よ」
というアリア。
そして、二つ目が特にその超絶技巧で有名な
第2幕の「復讐の炎は地獄のようにわが心に燃え」
という曲です。
この曲は、魔笛で最も有名なアリアと言えるのではないでしょうか。
第2幕では、夜の女王が実は悪役である事が判明します。
悪役だと思われていた、多くの信者を持つ聖職者である宿敵「ザラストロ」を
「殺さないと親子の縁を切る」
と、夜の女王が娘のパミーナに短剣を渡す場面で歌われるアリア。
ザラストロへの激しい復讐の思いが、超高音域を変幻自在に表現するコロラトゥーラで歌われるのです。
ある声楽家の方が以前語っていたのですが、この2番目の夜の女王のアリアを本当に歌いこなせるソプラノ歌手は、世界に7人しかいなかったとか。
誇張ではなく、この難易度の高い歌を歌いこなせるのは、本当にそのぐらい少ない人数なのだと思います。
僕は残念な事に、その時に聞いた名前を失念してしまったのですが、こうしてDVDを聴き比べていると、おそらく、その7人のうちの一人なのだろうなと思う人がいます。
その歌手の名は、エディタ・グルべローヴァ。1946年スロバキア生まれのソプラノ歌手。
1980年代に巨匠のカール・ベームに才能を見いだされた
「世界最高峰のコロラトゥーラ・ソプラノ」
「奇跡の声」「神の声」とも賞賛される容姿、才能、声質全てに恵まれたソプラノ歌手。
まさに「Queen of The Night」=夜の女王そのものといったオペラ歌手です。
そして、僕のコレクションの数ある魔笛のDVDの中で、特におすすめなのはこの二枚。
まずは一つ目、アマゾンの表の上の方です。1983年ミュンヘンでの、サヴァリッシュ指揮、エヴァーディング演出のDVD。夜の女王役にエディタ・グルべローヴァが登場します。
この盤は日本版のDVDは何度も再販されているのですが、いつも即完売。運良く手に入った人はラッキーだと思います。
「最もスタンダード・オーソドックスな解釈の魔笛」
・・・と言われるDVDですが、基本中の基本を知っておくことはどの世界でも大事ですよね。そういう意味でも、魔笛を深く理解したい方は一度観ておくべきだと思います。
もう一つはハンブルグ国立歌劇場の1971年の演奏。
僕はこのDVDのウィリアム・ワークマン演じるバリトンのパパゲーノが好きなんですよ。歌唱力があり、パパゲーノに必要なちょっと剽軽(ひょうきん)な役を見事に演じています。
夜の女王役のクリスティーナ・ドイテコムも1985年に心臓発作に見舞われてから歌手としての活動を自粛していますが、いわば、全盛期に録画された内容。本当にこの役は見事ですよ。
2作ともおすすめです。
オペラを個人の家で好きな時に楽しめるなんて、過去の王侯貴族たちが夢見て実現できなかった事です。
DVDという媒体を通してですが、この機会を楽しめるなんて、僕たちは本当に幸せな時代を生きているのだと思いますよ。
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