今日の診療がやっと終わりました。これから準備をして空港に向かいます。
その前に、ちょっとクリニックの話も書いておきましょう。
昨日、診療も終わりかけたころ、サーマクールCPTやフラクセル3DUALを製造/販売するソルタメディカル社から、セールスマネージャー Benedict LimがクリニックFを訪問してくれました。
彼は、フィリピンの出身。昨年にシンガポールで招待講演を受けた時以来の再会でした。
1時間ばかり話をしたのですが、今回一番の話題は、今春発売予定のフラクセルグループの下位機種のことでした。これをどのように販売しようか、ということで意見を求められました。
下位機種、といってもデザイン的には興味深いものが出てきました。というのも、ソルタメディカル社はアメリカ カルフォルニア州シリコンヴァレーにある会社ですので、土地柄コンピューターのデザイナーが多くいます。
そうした背景もあり、今回はこういった
マッキントッシュみたいなデザインの機器を持ってやってきたのです。
ソルタ社のフラッグシップであるフラクセル3DUALの波長は、1550nm&1927nm。
それに対し、今回の機種は「フラクセル:リファイン」に近いコンセプトで、波長は1440nmとなります。
今までこの波長はグラスファイバーを使用しないと作成できない波長でしたので、機器を作っても販売価格が非常に高額となってしまうのが難点だったのですが、今回この波長を半導体(ダイオード)レーザーでつくれるようになったので、廉価版を販売できることになったといいます。
ただ、レーザー機器の工学的な特性を考えると、ダイオードで高出力にするのは、技術的にも相当難しいので、この機種の出力は弱いのですけれどね。
これは日本で売れる可能性があると思うか?
という点について、意見を求められました。
日本でも、数名の医師にコメントを求めているようです。
売れる売れないは別にして、僕は少々心配になってしまいました。レーザーを購入する顧客として考えてみると、ソルタメディカル社が近い将来典型的なアメリカ企業の失敗の轍を踏むことになってしまうのではないか・・・? という不安が頭をよぎったのです。
僕自身はソルタメディカル社のサポーターを自任しています。彼らのもつ独自の技術を最も理解し、最もリスペクトをしている日本人医師の一人だと自負しているのです。だからこそ思い入れも強く、身内の事のように、喜んだり心配したりといったことが起きる訳ですが。
ちょっと前に、イタリアのフェラーリ社が株式上場を目指しているのは、既存の顧客を逃す可能性があるのではないか、というブログを書いた覚えがあります。それと同じで、きっとある一定の成功を収めた企業は、その後、それまで以上の努力とセンス、時の運を味方につけなければ、そこからさらに上を目指したり、またそのポジションを維持することは出来ず、株主のプッシュによる、さらなる飛躍と売り上げを伸ばすためには、常に新しい機器と市場を開拓しなければならないというディレンマを抱えることになるのでしょう。
経営学の世界では
「トレードオフ」
という原則があります。
一方を追求すれば他方を犠牲にせざるを得ないという二律背反の状態・関係を指すのですが、一つのブランドで、最高級と安価のダブル・ブランド戦略を取ることは、よっぽどの戦略がない限りできないのです。
典型的な失敗例としてよく挙げられるのが、米国企業 コーチの例です。
コーチは米国で生まれ育ったファッションブランドで、特殊なデザインの高級皮を利用した高級ブランド戦略で躍進し、一時は欧州の歴史あるブランドであるエルメスやルイヴィトンなどと張り合うぐらいの人気を誇りました。
それがなぜ凋落してしまったのか?
アウトレットショップなどに売り込みをかけ、さらに売上げを上げるために、セカンドラインの安いラインを新たに作り上げたからなのです。
これでコーチに対して高級なイメージを持たせた参入期のブランディングは、見事に崩れ去ってしまい、別の道を模索することとなったと言われています。
今では戦略を変え、新しいニュースとともにまた頑張っているようですし、僕自身はブランドに詳しいわけではないので教科書以上のことは語れませんが、ビジネスの実例としては非常にわかりやすいですよね。
これを我々の市場に当てはめてグローバルな視点で考えてみますと、現在世界の美容レーザー市場は、ソルタメディカル社のフラッグシップである「フラクセル3DUAL」、および同社のCO2フラクショナルレーザーである「フラクセル:リペア」を頂点に成り立っているといっても過言ではありません。
最高の能力を持ち、最高の施術が可能な「フラクセル3DUAL」を購入したくでもできない人たちが、一部のフラクショナルCO2レーザー機器や、他の波長の追従品を購入している状況なのです。
こうした世界最高の能力を持った会社が、自ら性能と価格を落としたセカンドラインの機器を販売し、それらの企業との価格競争に走ったらどういうことになるでしょう?
今まで築いてきたブランドも、市場も壊れてしまうのではないでしょうか?
僕の心配が杞憂に終わる事を祈るばかりですが・・。
ちなみに僕は、この「ブランド」というものを、小さなクリニックの中でしかありませんが、意識しながらこの5年余り仕事を続けています。
「藤本幸弘」という僕個人や「クリニックF」というちっぽけな意味でのブランドではありません。「レーザー・アンチエイジング」という広義な意味でのブランドです。
レーザーと、それに関わるエンジニアにリスペクトを払っている医師である以上、その価値が軽んじられるようなことを僕がしてはいけない、と思っているのです。
クリニックFに来る患者さんの中には、いわゆる日本的な意味での「セレブリティ」と呼ばれる方がいます。そうした方々から「タレント割引や女優割引はないのか?」「モデルなので安くしてほしい」「マスコミ関係でも施術料をとるのか?」と聞かれたり、驚かれたりすることがあります。
しかし、僕はクリニックFで特定の人の職業を理由にセールをやるつもりはありませんので、
「他の患者さんと同じ価格になりますが、それでいいでしょうか?」
と、治療に入る前に先に必ずお伺いするようにしています。
他のクリニックでは、ある特定の職業に就いている事で本当に安価で施術を受けられている方も大勢いらして、この言葉を言うのに勇気が必要な場合も多々あるのですが(苦笑)、でも一度でも院長である僕が揺らいでしまうと、雪崩が起きるだけですからね。
過去にはほろ苦い経験をしたこともありますので、このクリニックを作ってからはいつも強い気持ちを奮い立たせています。
その患者さんがどんな職業、どんなステータスにあっても、僕にとってはやはり皆同じ、平等に大切な患者さんであり、同じ診療、治療と効果を提供している自負があります。
実際、先にお伝えしてしまえばお互いにすっきりし、僕のポリシーを理解してくださった上でお付き合いくださる方も大勢いらして、それにはとてもとても感謝しています。
施術をされた方がその金額に相応する価値を感じていただいて、またこのクリニックに来たいなと思っていただければ、それほど嬉しいことはありませんし、そのためにも一層努力しより良い治療を提供していかなければいけないと思うのです。
それこそが、レーザー医療を大切にし、技術者に最大限の敬意を払い、その技術と英知をこの日本でも広め根付かせていくことにつながると思うからです。
さて、深夜便のシンガポール行き(節約のためエコノミーです(笑))に乗るために、そろそろ羽田に出発しますね。
世界最先端のレーザー情報がわかる
クリニックFオフィシャルサイトはこちらから
http://clinic-f.com/
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