カテゴリー「医療政策(海外諸国の医療政策) 」の6件の記事

2011年8月 8日 (月)

ロシアの医療政策、アロプラント

ロシアに滞在したのはこれで二度目でした。

今までも出張した各国独自の医療政策について個人的にまとめてきていますので、今回はロシアの医療政策についてまとめておきたいと思います。

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まずは、ソ連~ロシアという巨大社会主義国家の歴史を簡単におさらいしておきましょう。

1917年にレーニンにより結成された共産主義がロシア帝政に代わって政権を取り、世界に初めて社会主義国家という“スーパーパワー”が出現します。

'89年にベルリンの壁が取り払われ、'91年にソ連邦が解体されることによって、69年間続いたこの時代は終わりました。

社会主義というある意味での「理想国家」が、試行錯誤を繰り返しながらも様々な矛盾を抱えて終焉したのです。

社会主義施政下の当時、医療も「無料」で提供されていました。

医師および看護師の増員や公的病院、診療所の増設を国家がすべて行い、国民から医療費を徴収しないという、公的な「無料医療」が施行されていたのです。

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しかしながら、ソ連解体後の翌年、1992年には早くもロシアの医療状況は崩壊状態に陥いります。

ある意味当然ですよね。

新生ロシアにおける医療の現状を調べる過程でまず驚いたことは、医療にかける国の予算の驚くべき低さです。

国民医療費が国民総生産の2.2%しかないのです。

計算すると、国民1人当たりの医療費を年間250ドルしか、国で予算計上していない、ということになります。

年間250ドル。為替計算してみてください。びっくりしますよね。

この予算でひとりの病人に対しなにができるでしょう? 治療を担当する医師、看護士他スタッフ、機器、薬品、施設にどどういった比率で何を配分できるでしょう?

病人を健康に導くためにできることが確実に限定されてしまいますから、満足できるレベルで公的医療を施行するのは、事実上不可能だということになります。

ちなみに日本の医療機関において、初診で診療するのにかかる金額は、10割負担でも約3,000円。

これは何を意味するかというと、医師が受け取る初診診療の対価がひとりの患者さんにつき3,000円であるということを意味します。

対してロシアでの初診料は、約15,000円。

医師への対価が単純に日本の5倍という計算になります。

通常ヨーロッパでは初診料は100ユーロぐらいはしますので、日本が国際的には安すぎるわけでこれは別の議論が必要な領域ですが、とはいえ、様々な事情を差し引いても物価がロシアと日本では違います。

単純な5倍計算では成り立ちません。

さらに摩訶不思議なことに日本や他国だったら、診察を行うその場で済んでしまう簡易な治療や医療施術も、ロシアでは一旦病院に入院しないと受けることができません。

どうしてなのか理由はよくわかりませんが、入院すれば当然諸経費は跳ね上がりますから、ロシアの平均所得に対して医療費は非常に、非常に高額だということは確実に言えます。

最近ロシアでは自由企業も奨励されているので、私的医療施設の進出が盛んになりつつあります。けれど、診療費が公的施設のさらに数倍高額であるため、富裕層のみが利用しているようです。

公的施設での診療は税金で維持されていますが、大半の医療機関は老朽化が激しく機器や建物の老朽化は常に問題となっています。

ロシアの医師や看護師の診療レベルも、国際的にみると決して高いものではありません。優秀な人材はいることと思いますが、育てきれない現状があるようです。

教育・研究の問題もありますが、社会主義国家において、医師は人気のある職業ではありませんから優秀な人材は他の職業に流れてしまうという背景もあるでしょう。

不眠不休で、しかも人の命を預かる責任重い仕事をしても、他の職業と給与が一律であれば、人気が出ないのもある意味自明の理ですよね。

社会主義国家が崩壊してまだ20年ですから、新しい価値観の元医師の育成がまだ追いついていないのも当然と言えるでしょう。

こうした背景により、ロシア国民の80%は伝統医療や自然療法に依存し、重病以外は医師の診療を受けないというのが通例となっているようです。

感染症や急性疾患に強い西洋医療に関わることができないということは、そのまま乳幼児および高齢者の死亡率に繋がります。平均寿命は60歳前後という状態です。

医療技術の問題も良く討議されます。

チェルノブイリの事故の際に、小児の甲状腺がんの手術の祭に、首を横断する様な大きな切開の傷跡を残されているのをみて、現松本市長、信州大学元第二外科助教授であった菅谷昭先生が単身ベラルーシに飛び、5年半もの期間、甲状腺がんの首の傷跡の小さな手術を広められたことがNHKの「プロジェクトX」でも取り上げられましたが、ご覧になった方はいらっしゃるでしょうか?

僕も学生の時に菅谷先生の講義を受けた記憶がありますよ。

また、96年には,ロシア大統領ボーリス・エリツィン元大統領の冠動脈バイパス手術の際には、結果的にロシア国内で信頼に値する医師がおらず、全米最大の心臓医療センターであるテキサス・メディカル・センターのマイケル・E・ドゥベイキー医師(1908年生まれ、元ベイラー医科大学学長)のチームが招聘されたことが記憶にありますね。

DeBakey(ドゥベイキー)医師は大動脈解離の分類をしたことで、医学史に名前が残っています。

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ロシアの医療で誇るべき技術もあります。

そのひとつは、「アロプラント(Alloplant)」―すなわち、死体線維から得られる人体医用材料の技術です。

人間の死体は、臓器、組織、細胞、遺伝子などの各レベルにおいて、移植用、医薬品製造用、薬物試験用、医学実験・研究用など、さまざまな目的で広範に利用され始めているのです。

約10年前に、狂牛病の話題が出た際に、クロイツフェルト・ヤコブ病の原因となる汚染されたヒト乾燥死体硬膜が日本の医療機関でも広く使用されていることが判明しましたが、このヒト乾燥硬膜は商品化したヒト組織の典型例ですよね。

しかしながら、このアロプラントを使用することで、網膜色素変性症、糖尿病網膜症、加齢黄色黄斑変性、視覚神経萎縮症、緑内障、進行性近視、早産児網膜症などと言った今まで治療が不可能であった、とくに眼科系の疾患の治療の道筋を見いだすことができました。

ロシアでは特に身元不明の死体は、細かく分離され医療の商材にされるのです。日本人には死体ストックして商材化することなど、なんともなじめない文化習慣ですが、国によって当然倫理基準は違います。

ここでは医療テクノロジーが人体を医療資源化し、市場経済がそれを商品化する図式が成り立っているのです。

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2010年6月19日 (土)

シンガポールの医療政策

今回もシンガポールの医療政策について少し触れておきます。

シンガポールは、リー・クアンユー初代首相の強い指導力のもと、1980年代から

「医療は産業である」

という国家戦略で、国際競争力のある医療レベルを維持する政策を取ってきました。

「MOH Holding」という会社をシンガポール保健省の持ち株会社として設立させ、シンガポール国立大学病院をはじめ、国内にある13施設の国立病院と6施設の専門医療センターを所有運営しています。

シンガポール政府は、2003年より多額の予算を投じて「シンガポール医療構想」というキャンペーンを開催し、海外に対して医療サービスをプロモーションしてきました。

単なるイメージアップのためのプロモーションではありません。2012年に100万人規模の外国人患者を受け入れ、30億シンガポールドルの収入を得て、“外貨を稼ぐ”という「明確な目標」を掲げています。

その一方で、国民の医療機関へのアクセスを悪化させないため、外国人患者の受け入れ比率を8%以下に抑えているのです。

2010年現在でも、既に世界150カ国から外国人患者が来院して、「アジアにおける医療ハブ」としての役割を果たしつつありますが、政策として見事です。

シンガポールに来るたびに、日本もこうしたらいいのにな、と思います。きっと同じことを思うのは僕だけじゃないでしょう。

高度な医療レベルを持った日本ですから、もしも日本の医療を世界に向けてプロモーションすれば、必ずや外貨を稼ぐための、国の一つの基幹産業になります。

そのようにして得た外貨を、医療の質の向上に利用すればよいと思うのです。

この政策は、医療マーケットを国内に限定して考えている厚労省も参考にしていいのではないでしょうか?

研究面においても、1995年から各医療機関における質の評価を開始するとともに、アメリカのジョン・ホプキンス大学やスウェーデンのカロリンスカ大学などの、世界的な医学研究機関と提携し、研究の質的向上にも努めています。

さらに、諸外国より優秀な外国人医師や研究者をリクルートし、シンガポール国立大学の教授として赴任させています。しかも、優秀な海外の研究者たちが最も気にするであろう、子供の教育についても、シンガポールの高い教育水準を売り込むことによってサポートしているのです。

本当に、見事ですね。

シンガポール最終日は、晴天の中、朝からセントーサ島に学会に向かいました。

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途中、シンガポール・ジェネラル・ホスピタルを車内から見学することにしました。

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この施設、1821年に設立された組織なのですが、実際見ると驚くほど“巨大”です。

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病棟の数も多く、車で回ってもいくつ棟があるのか、わからないぐらい。

人口密度の高い国なのに、こうした施設をきちんと作り上げるのは、素晴らしいですね。

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2010年1月25日 (月)

フランスの医療政策を見て日本の医療を考えた

Img_5951_2シテ島のノートルダム大聖堂の斜向かいに、パリの市立病院があります。

Img_5953「HOTEL」という看板が。

正面は文字通り、ホテルの様な外観です。

ホスピタルとホテルの語源は、ラテン語では一緒ですものね。

Img_5954このパリ市立病院は、ほぼすべての科がある総合病院です。

Img_5956_2写真ではわかりづらいのですが、入口を入ると、受付を待つ患者さんがたくさんいました。

進んでいくと、窓の向こうに中庭が。Img_5955

素晴らしい設計。

入院するならこんな病院がいいな、と思ってしまいますね(笑)。

僕は先進国に行くたびに、その国の医療政策を調べてくるのですが、フランスは先進国の中でも最も効率のよい医療を提供している国かもしれません。

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1980年代のフランスは、現在の日本のように社会保障赤字に悩まされていました。

その対策として、患者の医療費自己負担率を増加させる政策を行ったのですが、患者数自体が大幅に減ることがなかったため、国家レベルの医療費削減につながるほどの策にはなりませんでした。

この内容は、2003年から日本でとられた一連の医療政策を想起させますね。

しかしながら、フランスの場合はその失敗で得た教訓を生かし、1990 年代に入ってから、今度は逆に医師側の供給コスト=すなわち医師及び病院にかかる経費を抑制する改革を進めました。

それらの政策とは、大きく3つあり

■診療ガイドラインの医療施術をデータベース化して、医療情報の標準化を行う。

これにより最も効率の良い最新の医療技術を、大学病院を離れ個人で開業して早○年・・・といった往年(ベテラン)の医師たちも共有することが出来、それにより不必要な薬を処方したり、過剰な治療を施すことによる経費の削減が実現しました。

また、病院スタッフの数も必要最低限で済むようになりました。

■「DRG(Diagnosis Related Group)=診断別関連群」を導入し、情報管理手続きを簡便にする。

これにより、DRGによって疾患をグループ化し、各病院に医療情報担当者を置くことで、疾患群の治療成績、コストなどについて、定量的分析が行われ、医師側もコスト意識を持つようになり、これも経費削減に繋がりました。

さらに、

■1999 年から1人1枚の情報記録媒体としての役割を兼ねた保険証カード(カルト・ビタル)を配布して、複数の医療施設にまたがって受診する人たちに、重複された治療や薬が出ないように、いわばカルテをカードに一元化し、患者と医療施設で共有化できるようにしたのです。

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一般的に言われていることですが、国家戦略としては、医療の

①コスト

②クオリティ

③アクセス

この三つの要素を同時に達成することは、ほぼ不可能です。

○米国では、②のクオリティが高く、③のアクセスの良い医療を受けることができる半面、①の医療コストが高額であり、市場原理によって、保険に入ることができない国民が6人に1人という割合で存在します。

②と③を重要視したため、①に負荷がかかっていると言えます。

○英国では、サッチャー政権下で①の医療コストを切り詰め、②のクオリティを維持した半面、手術を1年以上も待たねばならない患者が増加し、③の医療のアクセスが著しく低下したため、医療政策の変更を余儀なくされました。

①と②は実現できたが、そのため③を実現できない、と言えます。

一方で、

○日本は①の先進国最安のコストで医療を提供し、③の国民皆保険制度で医療へのアクセスを保障している。そして、②のクオリティも世界レベルで見れば、決して悪くはありません。

本来であれば、①と③を重要視すれば②に負荷がかかるのがセオリーの筈なのに、それがある程度の水準で維持されているのです。

これは「ミッション・インポッシブル」を達成していると言えます。

なぜか。

それは、ひとえに日本の医師たちの献身的な努力によって成されてきたと言えます。

その昔

「24時間戦えますか?」

というキャッチで流れたCMがありましたが、日本の医師たちはこの言葉通り24時間戦ってきた時代が長く、国家はそこに甘えて将来を見据えた政策を打ち出してこなかった。

人的非効率性に関連する自分の体験を書きますが、僕も大学医局にいた12年間文字通り24時間働き続けて最終的に体を壊し、医局を辞める決心がつきました。

その頃を振り返って今思えば、“技術職”の医師が行うにはいろんな意味で非効率的な“事務仕事”の比率の方が、患者さんの治療に実際あたる時間よりも多かったような気がします。

これも、しかし医局を離れすこし他の世界も知って初めて考え、思い至ったことで、これが組織の中にいると気付くことができないまま、日々の仕事に追われ、時にそんな仕事に流されてしまうんですよね。

「医師不足」と言われる時代ですが、その現状を単純に

「大学医学部の入学定員を増やす」

ということで解消しよう、というのは、あまりに短絡的です。

日本の医師及び病院、そして医療が抱えている問題は、それだけで解消されるとは到底思えません。

現場の医師がもっと治療に専念し、それもクオリティの高い医療を提供できるよう情報を共有できるように、仕組みを変えていく必要があると思うのです。

また、どんな職種もそうだと思うのですが、誰でも優秀な人間に仕事を回したいと考えるもので、たとえ医師の数が増えたとしても、仕事の出来る一部の医師の元に仕事が集中している現状があります。

これも、その医師でなければできないもの、もっといえば医師免許がないと出来ないものと、必ずしも医師免許がなくてもできるものに仕分けし、仕事の効率化を図ることは可能だと思います。

現在、秘書やアシスタントを持つような医師は、大学病院の教授や大病院の院長などのごく一部ですが、むしろアシスタントが必要なのは実際に第一線の臨床にいる医師達なのかもしれません。

非効率な作業をしている時間を有効活用し、診療に打ち込める体制に代えるようなコメディカル・アシスタントの役割が出来る専門職種の養成が必要なのだと思いますよ。

これは、僕自身開業し、「人を雇い使う」という経験を初めてやって気付いたことです。

看護師とはまた違う形で、医師をフォローし支えられる人材が医局や医療現場に増えると、今日本の病院が抱えている問題はいくつか解消されるかもしれません。

すこし話がずれてしまいましたが、戻りますと、フランスの医療機関について調べて考えたこと。それは、日本の医療政策も、現在のように、国民医療費の額を、単純に「保険診療費の切り下げ」によって低下させるのではなく、重複受診や会計システムなどの人的非効率性を排除することによってコストを適正化することが、日本の医療政策に最も必要なことなのだと思いました。

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Img_59521_2 路上に救急車が停まっていました。

フランスの救急車はこんな色なんですね。

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2009年12月13日 (日)

医学の神が現れた小島とイタリアの医療事情

イタリア出張記も終盤です。

さて、僕が最後に向かったのはローマを流れるテヴェレ川の中州に当たるこの小島である、ティベリーナ島です。

Photoグーグルの地図で場所をご確認ください。 

897この島には、チェスティオ橋とファブリーチョ橋がかかっています。

ふたつとも古代ローマ時代からかかっているそうですよ。

写真はファブリーチョ橋。紀元前62年に造られたもので、ほとんど変わっていないのだそうです。すごいことですよね。

908橋を渡る途中の景色です。

この島が船状の形をしているのが写真でわかるでしょうか?

902このファブリーチョ橋を渡るとティベリーナ島につきます。

この島は、医術の神であるアスクレピオスが、姿を蛇に変えて現れたという伝説があり、紀元前3世紀に神殿が建立され、病気回復を願う人々がここで祈りをささげたとのことです。

アスクレピオスが蛇に姿を変えたところから、医学を示すシンボルは、蛇のことが多いのです。

Jma ちなみにこちらは、日本医師会のマーク。

ほら、よく見ると左に蛇がいますよね。

今はこの神殿の跡地にサン・バルトメオ教会が建っています。

903そしてこの教会の目の前には、近代的な病院が建っていました。

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すぐ横の川がよく見えます。

イタリアは、先進国の中では、特に医師免許を所有する人が多いことで知られています。

イタリアの医学部の入学試験はほとんどないに等しく、高校卒業資格だけで入学できます。

ただし卒業できるのは少ないようです。

イタリアでは人口1000人に対し、医師免許を持つ人は3.9人。これは日本の2.1人に比べると、人口比で倍近い数ですね。

特にローマのような都会には、100人に一人が医師であるような過密なところがあり、患者さんが集まらないので、医師免許を持ったのにタクシーの運転手をしているような人もいるようです。

基本的に、イタリアの人が病気になったら、保険会社を介して登録医のリストから、医師を選び診察を受けることになります。それは無料ですが、その後専門の医師を受診する場合は有料になるようです。

またCTやレントゲン、MRIなどの高額医療機器に至っては、取り入れている施設の方が少なく、順番待ちに1週間以上かかることは常ということでした。

一方で、緊急を要する救急の処置は無料でできるそうです。しかし、症例のトリアージ(重症度の選択)のシステムはあまりうまくいっておらず、自己アピール力(ときに演技力?笑)のある人の方が優先的に診てもらえるといった弊害もあるようです。

医業で収益を上げるのは難しいため、僕の専門とする特に最新のレーザー光治療機器などはこれまであまり導入されずに来た現状があります。

そうなると、アンチエイジングの施術は、メソセラピーやフィラー、グロースファクター、イオン導入器、そしてエレクトロポレーションなど、注入系の原価がかからないものが選択されがちになります。

ヨーロッパで、注射を中心としたアンチエイジング治療がメインになるのも、よくわかる気がしますね。

レーザー・光治療器をきちんと使用すれば、肌の中の、しかも自前のエラスチンやコラーゲンを確実に増やすことができます。このあたり、光治療器は一日の長があり、そういった情報も含め、イタリアでもレーザー治療に徐々にスポットが当たり始めているのを今回の出張では肌で感じました。

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2009年10月26日 (月)

シャリテ大学病院訪問とドイツの医療事情

007 ベルリンに行ったら、必ず訪れてみたいと、僕が以前から思っていたところがひとつありました。

それはこのCHARITE(シャリテ)大学病院。

戦前日本はドイツの医学を規範にしていたことはよく知られていますよね。ここは、森鴎外、北里柴三郎など日本医学を代表する先輩方が学んだことで知られる病院です。

0111710年に設立され、来年2010年には300周年を迎えるという、世界最古の大学病院施設なのです。

012この敷地内にほぼすべての科の病院施設があります。

009 ベルリンの中心地にあるのですが、敷地はかなり大きい様子。

013 敷地内は近代的な建物もありますが、赤レンガで統一されています。

018 中に入ると小児科外来などはこんなに近代的。

020 学会が終わった後、夕方過ぎに行ったので、もう辺りはほの暗く、ぽつりぽつりと灯りが点っています。

ドイツは、2007年の統計で世界第3位、GDP比11.3%のの医療費がかかっています。

1990年に西ドイツが東ドイツを併合する形で統合が行われましたが、この段階で東西の医療格差がかなりあり、その混乱を収束させるために、ドイツ国土にある558の行政区域をそれぞれ医療圏とし、開業医の定員を専門医別に定めました。1993年のことです。

この定員は3年ごとに人口密度、人口構成、住民の年齢、性別、職業などを配慮して見直しがされているそうです。

ドイツらしく合理的ですよね。

ドイツでは公的医療保険に基づいて、1割程度の高額所得者を除いた全国民が公的医療保険への加入が義務付けられています。高額所得者は保険に入れないため、民間保険に加入しているのだそうです。

統一後の医療政策は、一貫して医療費削減に向かっていますが、そのしわ寄せは医師や看護師などの医療従事者に来ており、公的健康保険からの診療報酬がヨーロッパ各国と比較しても低いため、米国やイギリスなどの周辺諸国に移り住んで開業する医師も多いのだそうです。

このシャリテ病院でもストライキが行われたそうですよ。

ドイツ医師連合会によると、1万2千人もの医師がドイツ以外で開業しているのだそうです。ドイツ人医師の数は、2007年に14万人強と発表されていますので、10%弱の医師免許保有者が海外流出していることになります。まさに頭脳流出。日本でも近い将来同じ未来が訪れるのでしょうか。

022 さて、このシャリテ病院は、医者にとってはある事でとっても有名な病院なのです。

かの有名な病理学者のルドルフ・ウィルヒョー博士の研究室があった場所。

024 病院敷地内に、医療器具ミュージアムがありました。

静脈血栓症の生成に関する三つの要因(Virchow's Triad)というのを病理の時間に習った記憶がありますが、(ちなみに血管の障害、血流のうっ滞、血液性状の変化)彼の作り上げた数多くの標本や、彼の使用した顕微鏡など、興味深いものがたくさん展示してありました。

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2009年10月 5日 (月)

セントトーマス病院とイギリスの医療政策

020 ビックベンからテムズ川に向かうと、対岸に白い大きな建物が見えてきました。

セントトーマス病院です。

この病院は、医療従事者にはあることでとても有名な病院なのですが、ご存知ですか?

1854年にクリミア戦争が勃発し、ナイチンゲールが看護婦として従軍しました。

ナイチンゲールのその素晴らしい働きぶりは「クリミアの天使」と呼ばれ、「白衣の天使」の言葉の由来にもなっているのはご存知ですよね。

当時の兵舎病院では、戦争で負った傷よりも、兵舎の不衛生(による感染症)によって兵士が多く亡くなっていたのですが、ナイチンゲールが病院内を清潔に保つことの重要性を説いたのです。

フローレンス・ナイチンゲールが戦時中に集まった基金を元に、1960年にロンドンに作った看護学校がこのセントトーマス病院内にあるのです。専門教育を施した看護師養成の必要性を強く説いたのです。

ナイチンゲールの働きに大きな影響を受けた

とされるのは、国際赤十字を作ったアンリ・デュナン。

デュナンはこの功績により、1901年に第1回ノーベル平和賞を受賞しますよね。小学校の国語の教科書に書いてあったのを覚えています。

ロンドンのすごいところは、街を歩いているだけで、いろいろな歴史が絡んでくる名所がいたるところに見つかるところですよね。

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ところで、イギリスの医療政策の現状はどんな感じなのでしょうか?

イギリスと言えば、「ゆりかごから墓場まで」という世界に誇るキャッチフレーズの医療福祉政策を行ってきた印象がありますが、これは1990年代のサッチャー政権下に国民保健サービスコミュニティーケア法(NHS)が成立してから、市場競争原理を医療の分野に導入します。

低医療費政策により、通常の病院にはレントゲンなどの基本的医療機材の配備もなく、専門医療を受けるための手術の待機待ち患者が100万人。待ち時間も1年間を超えるなど、深刻な影響を及ぼしました。

イギリスのOECD加盟国のGDP比医療費率は低下の一歩をたどり、2000年には先進国の中でももっとも低い7.3%(2番目に低いのは日本です)となりました。

このあおりを受けて医師不足、看護師不足を招き病棟が維持できなくなり、医師ばかりか患者が海外に流れるといった、医療流出を招きました。

ブレア政権になってから、医療に市場競争原理を導入する政策の間違いに気付き、医療費を1.5倍にしてEU諸国の平均に引き上げ、「医療費抑制の時代」から「評価と説明責任の時代」へかじ取りを行っていますが、いまだに待機待ち医療患者の数は多く、医療へのアクセスが大変低下している状態です。

一度「医療費抑制政策路線」をとって、崩壊した医療は、なかなか戻せないということですね。

今後も国外に出張した時には、その国の医療政策をまとめてゆきたいと思います。

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